宮城刑務所『仙台送り』時代から見る死刑制度のあり方と日本

コラム

今の若い人で『仙台送り』という言葉を聞いたことがある人は少ないでしょう。

かつては死刑の代名詞ともいわれ、警察関係者や受刑者のみならず一般にも広く知られていた言葉です。

この言葉が使われていた時代は死刑執行は今に比べ頻繁に行われていました。

今回は日本における死刑の歴史と死刑制度そのものについてみていきたいと思います。

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『仙台送り』の意味と歴史

確定死刑囚がいる場所といわれたら、まずどこが思い浮かびますか?

おそらく多くの人は東京拘置所と答えるはずです。

確かに日本にある拘置所のなかでは最大であり、有名な確定死刑囚を何人も収容しています。

しかし1950年代、東京拘置所の刑場は大規模な改築工事を行っており、東京拘置所での執行はできない状態でした。

ただ、当時から東京拘置所には複数の確定死刑囚がいましたので、死刑執行をするためには刑場の設備が整っている他の場所へ移送する必要があったわけです。

そこで使われたのが宮城刑務所が所管している仙台拘置支所です。

当時、多くの死刑囚が仙台拘置所に移送されていきました。

基本的には収容されている拘置所で刑が執行されるため、仙台に移送されるということは刑の執行が間近であることを暗に示していたということです。

これが『仙台送り』という言葉ができた経緯です。

【ちょっと補足】
ちなみに、刑務所と拘置所って何が違うの?と疑問に思う人もいるかもしれません。分かりやすくいうと、刑務所=『刑に服している人が入るところ』、拘置所=『刑に服すのを待っている人が入るところ』という感じです。通常実刑判決を受けると懲役刑が確定します。そうすると、受刑者は懲役刑を受けること=刑に服すことですので刑務所に入るわけです。しかし、死刑囚は死刑という刑は確定していても刑に服してはいません。まだ待っている段階です。そのため拘置所に収容されているというわけですね。

この時代の有名な事件

この時代に起きた有名な事件には、『おせんころがし殺人事件』や『小平事件』があります。

おせんころがし殺人事件で死刑判決を受けたのが栗田源蔵、小平事件で死刑判決を受けたのが小平義雄です。

両社とも東京拘置所から仙台拘置所に移送(仙台送り)され、死刑が執行されました。

このほかにも多数の確定死刑囚が仙台に移送され、刑の執行を受けます。

執行数の推移

第二次世界大戦が終結した1945年以降の死刑執行数の推移をグラフにしました。

これに収容者数を重ねたのが以下のグラフです。

当たり前ですが、執行数が減少したことによって収容者数も増加しています。

毎年確定死刑囚は増えますので、収容者数は年々増加していきます。

ここ数年は微妙に減少傾向ですが、減ったと表現するレベルに減っているわけではありませんね。

死刑判決を受けても執行されないのはなぜか?

日本は死刑が確定してもなかなか執行されませんよね。

これを疑問視している人もかなり多いんじゃないでしょうか。

この理由はいろいろあると思いますが、主に考えられるのは以下のような理由です。

刑が執行されない理由
  • 再審請求
  • 共犯者の裁判の影響
  • 法務大臣の問題

死刑が確定した確定死刑囚には裁判のやり直しを求める再審請求の権利が与えられています。

再審請求をしている最中は原則として執行されないため、再審請求をやり続けることで死刑の執行を回避しているという状況も実際にあります。

また、共犯者がいるような事件では、その共犯者の裁判が終結するまで死刑囚の刑を執行しない場合が多いです。

これはオウム真理教関連の事件で話題になったので知っている人も多いでしょう。

麻原彰晃こと松本智津夫死刑囚がなかなか執行されないのも、こういった理由からだといわれていますね。

このほかにも本来あってはならないことだと思うのですが、法務大臣の倫理観や宗教観が影響していることもあります。

執行の命令をするのは法務大臣ですが、その法務大臣が死刑廃止論者であるという場合ですね。

実際に2005年から2006年に法務大臣を務めた杉浦法相の際には、自身の宗教観などを理由に執行をしませんでした。

現在の死刑制度と法律の矛盾

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死刑を存続すべきかどうかという点は置いておいても、現在のこの状況は法律とかなり矛盾しています。

刑事訴訟法第475条は以下のように定めています。

刑事訴訟法第475条
1項:死刑の執行は、法務大臣の命令による。
2項:前項の命令は、判決確定の日から6箇月以内にこれをしなければならない。但し、上訴権回復若しくは再審の請求、非常上告又は恩赦の出願若しくは申出がされその手続が終了するまでの期間及び共同被告人であった者に対する判決が確定するまでの期間は、これをその期間に算入しない。

注目したいのは2項です。

テレビのニュースとか雑誌でもよく取り上げられる話なので知っている人も多いと思いますが、この2項に書かれていることは現状まったくもって機能していません。

判決確定の日から6カ月以上たっても執行されていない確定死刑囚なんてたくさんいます。

というか、そういう人がほとんどです。

あるデータによれば、死刑が執行された人の死刑確定日から失効日までの期間は再審請求や共犯の裁判など特別な理由を除いたとしても平均4年3カ月とのことです。(平成19年12月7日 衆議院法務委員会 法務省刑事局長答弁)

これに関して、実は過去に死刑囚が損害賠償を求める裁判を起こしたことがあります。

刑事訴訟法に6カ月以内の規定があるのは確定死刑囚の死刑執行までの精神的苦痛をできる限り取り除いてあげるために速やかに執行すべきであるという考えのもと生まれたといわれています。(昭和23年6月28日 参議院司法委員会 政府委員説明)

速やかに執行されなかったことによって、死刑執行までの恐怖が生まれ苦痛を感じているから損害賠償を請求したということですね。

では、この裁判の結果どうなったかというと、原告敗訴。つまり、裁判所は違法性を認めませんでした。

この判決の理由を裁判所はどう説明した?

法律に明記されているのにおかしくない?と思うのは普通です。

私も同じくおかしいと思っていますし、多くの人が思っています。

そこで気になるのがこの判決に至った理由です。

東京地裁は以下のように説明しました。

同項の趣旨は、同条1項の規定を受け、死刑という重大な刑罰の執行に慎重な上にも慎重を期すべき要請と、確定判決を適正かつ迅速 に執行すべき要請とを調和する観点から、法務大臣に対し、死刑判決に対する十分な検討を行い、管下の執行関係機関に死刑執行の準備をさせるために必要な期間として、6か月という一応の期限を設定し、その期間内に死刑執行を命ずるべき職務上の義務を課したものと解される。したがって、同条2項は、それに反したからといって特に違法の問題の生じない規定、すなわち法的拘束力のない訓示規定であると解するのが相当である。

これは一言でまとめると、いわゆる『訓示規定』というものです。

訓示規定というのは法的拘束力があるわけではなく、努力義務があるだけにとどまるというものです。

この説明を聞いてどう思いますか?

訓示規定は都合のいい言い訳

訓示規定というのは何もこれに限ったことではありません。

法律の世界ではよく出てくる、いわゆる『都合のいい言葉』なんですね。

正直、こういうのを認めたらいくらでも都合のいいように解釈できてしまうだろうとも思えるのですが、残念ながらこれが日本の現状です。

『確かに法律的には間違ってるけど、違法と判断したら法務大臣の責任になってしまう。

もし法務大臣の責任を問うなら、過去の法務大臣の責任も問わなければならない。

そうなると大変だなぁ。

そうだ!訓示規定ということにして努力義務と解釈すればいっか!

都合のいい言葉みーっけ!』

みたいな感じですよね(笑)

こんなの子供の言い訳と変わりません。

上で見たように、死刑執行数は昔に比べ減少しました。

この理由として考えられるのは死刑制度への批判が多く、世界的にも死刑廃止の動きが過熱しているためです。

この流れに逆らって死刑執行しまくったら海外からの目も怖いよなぁ。

というような感じで昔のような勢いはないのでしょう。

しかし、一方で日本国内では死刑賛成派が多数を占めています。

朝日新聞の調べによれば、世論調査の結果8割近い人が死刑制度に賛成と述べています。

死刑制度は存続しているけど、執行はそこまでしない。でも、なくなることもない。

このどっちつかずな感じが一番よくないと思います。

死刑制度の歴史を改めて見てみて、日本という国の悪いところが見えた気がします。

この優柔不断さによって、死刑という刑そのものよりもさらに残酷なことをしていると思います。
いつ執行されるかわからない恐怖を与えているのですから。

死刑廃止論者は死刑の廃止を訴える前に、この状況の改善を訴えるべきだと思います。

今の日本では当たり前のようになってしまいましたが、こんなの世界的に見て日本くらいですからね。異常な状態です。

頭がいい国民なのですから、優柔不断で及び腰なところは改善すべきだと思いますね。

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